昨年(2013年)の8月は、高温と少雨によって四万十川の水温が高い状態が続いたことを本紙でご紹介しました(四万十川だより3)。一転して、今年の8月は、台風12号と11号が相次いで高知県に来襲し、“観測史上最多”、“いまだ経験したことがない”、といった報道が続く記録的な豪雨に見舞われました。この度の豪雨で被災された皆さまにお見舞い申し上げると共に、1日も早い被災地の復旧を心よりお祈り致します。
この度の大雨により、四万十川も増水して濁流と化した状態が長く続きました(写真)。一般に、出水が発生すると、水温低下や濁りにより河川環境は一変します。右図は、四万十川下流(具同)の水温と水位の日変化を昨年8月と今年8月で比べたものです。これによると、昨年はほとんど出水がなく(最高水位2.86m)、水温も連日30℃を超えたのに対して、本年は8月初旬の台風に伴う洪水(最高水位12.20m)によって河川水温は20℃以下まで低下し、その後も8月末まで水温が30℃を超えることはありませんでした。
洪水による河川の撹乱が河川生物に与える影響については、これまで多くの知見が蓄積されています。内水面漁業の代表種であるアユを例にとってみても、出水に伴う濁りの長期化は付着藻類などアユの餌環境に影響を与えることが指摘されています(和ほか,2014)。また、産卵期の出水によって、産卵場への親アユの降下行動が助長されたり(井口ほか,1998)、産卵場となる河床の物理的な環境が更新される可能性があります。さらに、ふ化期間中の出水は、流下仔魚の降下速度や仔魚の分散範囲などに影響を与える可能性があります(田子,1999;東ほか,2003)。そのほか、遡上期の出水はアユの遡上活動を活発化させるとされています(平野ほか,1996)。このように、アユは河川の流量変動に伴う様々なインパクトを受けながら河川環境に適応してきたといえましょう。
アユに限らず全ての河川生物は、河川の普遍的な現象である流量変動の影響を受けながら進化、適応してきたはずです。したがって、流量変動に伴う環境変化が河川生物に与える影響について、今後さらに多面的なデータを蓄積することが、河川生態系への理解を深める上で必要不可欠なことでしょう。
(四万十リサーチセンター 東 健作)
【引用文献】
東健作・平賀洋之・木下泉.2003.降下仔アユの海域への分散に及ぼす降水量の影響.日本水産学会誌,69(3):352-358.
平野克己・岩槻幸雄・三村文孝・八木征雄・尾田成幸.1996.岩熊井堰中央魚道におけるアユ遡上について.水産増殖,(1):1-6.
井口恵一朗・伊藤文成・山口元吉・松原尚人.1998.千曲川におけるアユの産卵降河行動.中央水研報,(11):75-84.
和吾郎・藤田真二・東健作・平賀洋之.2014.高知県物部川の大規模山腹崩壊に伴う濁質の流出特性の変化.陸水学雑誌,75(1):13-26.
田子泰彦.1999.庄川におけるアユ仔魚の河口域への到達時間の推定.水産増殖,47(2):215-220.
四万十川下流における8月の水温と水位の年変化(水温は弊社測定、水位は国土交通省データベースによる)